笑い声
初めましての方は初めまして。そうでないかたはこんちゃ。コムです。
先ほどアップした記事があまりにも手抜き過ぎたので、それをごまかすために春先に私が暇なときに書いた拙いショートストーリーを置いておきます(手抜き)。題名は「笑い声」です。以下本文。
笑い声
「ひぃっひっひっひ」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ」
「ぎゃははははは」
「ぬははははははは」
大都会東京の一角、高級住宅街の中にある少し場違いな古い学生アパート。そこの二階に私の部屋はある。家賃は少し高いが相場よりそこそこ広く、網戸が一日一回外れることと、あと一つの問題点を除いては何の文句もない良物件だ。
「あはははは」
夜になると、下の部屋から時折笑い声が聞こえてくるのだ。しかもけっこうはっきりと。しかし他の音は聞こえないのでいつも、あぁ、何かに笑っているんだなぁと大学生らしからぬ小学生並の感想をもつ。
「ふぁほほほほほほほ」
とはいっても、実はこれはそこまで大した問題ではない。私は世間で騒音と呼ばれるようなものはそこまで不快に思わないどころか、何かしらの音を聞いていないと不安になってしまう性分だからだ。憤りを覚えるのは、自分で自分を慰めている最中に笑い声が聞こえてきて萎えてしまうときくらいである。
「げへへへへへへ」
ただ、不快には思わなくても、毎日聞こえてくるのだからさすがにだんだんと気になってくる、というか興味が湧いてくる。笑い声の主である下の部屋の住人は、どんな心境でこんなに笑っているのだろうか。単純に楽しいから?嬉しいから?面白いから?逆に悲しくてしょうがなくて、笑ってでもいないとやってられないから?はたまた何かをキめて頭がハッピーになっているのだろうか。おまわりさんコイツです。
「ぶぉほほほほ」
そんなことを考え、時折聞こえてくる笑い声をBGMにしながら、私は今日も炊飯の予約をし、テレビを消して、窓を閉めて寝るのであ…じゃないな、洗濯物を取り込むのを忘れていたようだ。あほしね。ベランダに出ようとすると案の定網戸が外れたので舌打ちをして、網戸を直してからカピカピ冷え冷えの洗濯物を回収しようとする。…しかもなんで服がかかってないハンガーがあるんだよ。部屋から溢れる光を頼りにベランダの下を見ると、私のポプテピピックのTシャツのプリントが、こっちに中指を立てているのがわかる。こっちのセリフだF◯ck You。しょうがない。落ちてしまったなら下に取りに行こう。
このアパートの外は、夜になるととても暗い。階段を降りるときなんかも、ほぼ感覚だけで暗闇の中を進まなければならない。その辺にある外灯の明かりは頼りにならない。少し先の大通りの車の音だけが聞こえてくる。
私のTシャツが落ちているアパートのほんの小さな裏庭?のようなものに入るため、私は裏手にまわった。ガチャリ、といつも鍵が開きっぱなしの柵を開ける。裏庭?は一階の各部屋の窓の真ん前とそのままつながっている、なんとなく勝手に忍び入ってるような後ろめたい気がして、足音を殺して入っていった。
一面黒の静寂の中、Tシャツをなんとか回収した。さぁ戻ろう。
「いやははははははは」
うっっっっっわ。背筋に緊張が走る。セイラさんに見られたらそれでも男ですかと頬を張られそうなくらいみっともない驚き方をしてしまった。
「くふふふふふふふ」
今日も笑っている。愉快なもんだな、おい。私をビビらせておいて。
「こほほほほほほ」
いいさ、せっかくだからちょっとくらい覗いてやろう。私は最近の疑問をようやく解決できるのだという高揚感と、他人の部屋を盗み見るという緊張感で、よくわからないテンションになっていた。さぁ、いざ。
「ひいっ、ひいっ、はっはっ、はっ」
誰もいない真っ暗な部屋で、お笑い番組だけがテレビに映っていた。
「んっはっはっはっは」
なんか、なんかこわ
「あははは」
い。私は足早にその
「なはははははは」
場を去った。
階段をわざと騒がしく駆け上がり、ドアノブを荒々しくまわした。
部屋の中は安全地帯だろうと思った。別に何も危険な目に遭ったわけではないのに。深く息を吐いた。
ドラえもんの歌をそこそこの声量で歌いながら居間に戻ると、テレビがついていた。
テレビがついていた。
テレビがついていた?
お笑い番組が流れている。
「がっはっはっはっは」